あの一時停止違反容疑はどうなった?(2000年3月3日)

 クルマやバイクを運転される方なら、誰もが1度はもらったことがあるであろう“青キップ”。程度の軽い交通違反(あるいは違反容疑)に対して取り締まりに当たった警察官からいただく有り難くないシロモノであり、これを切られると『反則行為』があったとされる紙切れである。たいていの場合は、『サイフは痛いけど違反しちまったしな、時間もないし争うのも面倒だから反則金払って終わりにしちまおう』というわけで、青キップと一緒に渡される『反則金納付書』に従って、所定の金融機関で期限内に反則金を仮納付して終わりにしてしまう。

“反則金”とは何かというと、『交通違反は本来は犯罪行為であり刑事手続きに従って扱うべきなのだが、反則金というペナルティを払えばカンベンしてやろう』という意味のお金である。つまり犯罪を犯罪として扱わないというわけで、この制度を『交通反則通告制度』といい、この手続きを刑事手続きに対して『反則手続き』という。交通違反はあまりにも数が多く、いちいち犯罪として扱っていたら裁判所がパンクしてしまうので、このような仕組みになっているわけだ。

 ちなみに、この“反則金”は“罰金”とは違う。罰金は程度の重い交通違反、つまり『非反則行為』に対して切られる“赤キップ”をもらった時に支払わなければならないお金のことである。赤キップの違反はきちんと犯罪行為として扱われ、『刑事手続きに従って検察官により裁判所に送られ、裁判官に命令されて』罰金を払う義務が生じるのであり、犯罪者に科される刑罰のひとつである(ちなみに私は過去に1度だけ赤キップを切られたことがある(^_^;))。

 反則金は、青キップを切られたら必ず払わなければならない、というものではない。違反の程度が軽く、取り締まりに不服のない人ならば払って終わりにしてもいいが、不服のある人は反則金を払わないで本来の道である刑事手続きに進むことができる。

 ということで前置きが長くなったが、ちょうど2年前に私が取り締まりを受けた“一時停止違反容疑”について、その経緯を書いていこうと思う。


 1998年2月23日午前10時半ごろ、私は第3京浜の京浜川崎インターチェンジ(IC)に向かって、第3京浜の側道を会社のトラックで走っていた。私の前には紫色のニッサンマーチが走っていた。側道からICの交差点に入る所には赤の点滅信号がある。マーチはその点滅信号のところの停止線で徐行をし(ここがポイント)、そのまま交差点に入りICの横浜方面の進入路に入っていったので、私も交差点の安全を確認のうえそのあとについて進んでいった。すると横浜方面の進入路に入った所で私のトラックの前に警官が出てきて『止まりなさい』となったのである。

 今見ると青キップの『反則事項・罰条』欄には『(9)信号無視(点滅)◎信号機信号赤色点滅無視 7,4・I,119・I(1の2),令2・I』というわかるようなよくわからないようなことが書かれているが、要は一時停止を意味する赤色点滅信号のところで一時停止してなかったよ、ということである。この時、私のトラックは前を走っていたマーチと同じように走っており、取り締まりにあたった警官もマーチが一時停止をしていないと認めたにも関わらず、私のトラックだけが取り締まりを受けたのである。この時は客先に納品に向かう途中で時間がなく、青キップにサインしない、とかいうと時間がかかりそうだったのでとりあえずサインをしてその場を離れたのであるが、この取り締まりに納得がいかなかったのはいうまでもない。そこで私は7000円の反則金を払わないで刑事手続きへの道を進むことにしたのである。

 青キップと一緒にくれる反則金納付書を無視して仮納付をせず、青キップに書かれた出頭日(取り締まりを受けた日よりちょうど1ヶ月後)までに青キップの裏に書かれた『交通反則通告センター』というところに出頭もしないでいると、2ヶ月くらいしてその通告センターから納付書が郵送されてきた。この納付書で納付すると郵送料800円も負担することになるのだが、もちろんこれも無視。するとさらに2ヶ月くらいして今度は通告センターからの督促のハガキが送られてきた。もちろん無視。ハガキには赤い文字で『この通知によって、反則金が納付されなかった場合は、刑事事件として検察庁に送致することになります』と書かれているが、『ふふん、望むところよ』てなもんである(笑)。

 こうなると『反則手続きの適用を拒んだ』ということになって自動的に刑事手続きへの道に進むことになる。刑事手続きといっても事が大げさになるわけではなく、弁護士を雇ってどうこうとか、何ヵ月もかかって裁判をするとかといったことになることはめったにない。さて、通告センターからの督促ハガキによる納付期限が過ぎるとすぐ、今度は『交通裁判所に出頭せよ』というハガキが送られてきた。ここに行くのは反則金を“払い忘れた”場合が多く、たいていの人はここで“略式裁判”に応じ罰金を払うことになる。略式裁判とは大量の違反者を迅速かつ簡便に処理するための裁判で、その日のうちに簡単に終わるかわりに必ず有罪になり罰金を納めることになる。これでもいちおうはきちんとした裁判なので、納めるお金も反則金ではなく罰金になるのだが、ちなみに額は同じである上に、通告センターから送付通告を受けたときの郵送料800円も負担しないで済む。

 保土ヶ谷(横浜市)の山の中にある(ちなみに隣は陸上自衛隊横浜駐屯地)交通裁判所に出頭したのは7月16日。すでに取り締まりから半年が過ぎている。着くと受付窓口に呼び出しハガキを見せ、案内に従って待合い室のような所へ。老若男女いろんな人たちが呼び出しを待っている。部屋の奥には机が6台くらいだったか、横一列に並べられており、向こう側には担当の係官(もちろん警官)が座っている。自分の名前が呼ばれるとその係官の前に座り、反則金を払わなかった理由を聞かれ、その後大多数の人は略式裁判の手続きを進めることになるである。

 自分の名前が呼ばれたので私は係官の前に座り、「取り締まりに納得いかないので反則金は払いません」とキッパリと言った。すると係官は部屋の奥の方に向かって「拒否です!」と呼びかけ、奥から別の係官が出てきて私を別の部屋に連れていった。そこは最初にハガキを見せた受付窓口の中の部屋で、雰囲気としては学校の職員室のような感じ。私を連れていった係官は使っていない椅子を私にすすめ、自分は自分の席と思しきところに着くと、供述調書を取るための尋問が始まった。

 しかし、この場所は相手にとってはいつも仕事をしている慣れた場所であり、しかももちろん周りは警官だらけである。ちょっと気の小さい人だったらビビってしまうだろう。もちろんそれがテキの狙いなのだろうと思うが。しかし私は事前に言いたいことをまとめておいたので、落ちついて調書を取られることができた。駄菓子菓子、テキもさる者。なんとかしてこちらの言い分がいいかげんであると認めさせようとあれこれ絡め手で攻めてくる(笑)。例えば、こちらの交通法規に対する知識はあいまいだから今回の件だってあなたは違反しているんだよ、と認めさせたいのであろう、前のクルマとの車間はどれくらいだったかと聞き、こっちがちょっとあいまいな返事をしようものなら『車間距離ってのはどれくらい開けなければならないか知っているのか』みたいな話しに持っていくのである。私は途中でこれに気づいたので『今話しているのは一時停止違反容疑の件ですから、直接関係のない車間距離の話しはやめてください』と話しを戻すことができたのだが。

 調書を取り終わり、署名をする前に目を通してみると危ないアブナイ。肝心のところがすべて『違反』と書かれている。これでは私が違反をしたと認めていることになってしまう。裁判所が見るのはこの調書だけといってよく、ここに書かれていることがすなわち私の言い分として扱われるのである。ここに自分にとって不利なことが書かれていたら、訂正できるのは今しかない。私は以下に示す文書に書いたとおり“違反はしていない”のであるから、『違反』と書かれた箇所をすべて『違反容疑』に直すよう求め、直したのを確認してから署名をし、その上で最後に「この紙を一緒に付けてください」と自分の言い分をまとめて署名捺印した紙を渡したのである。内容は以下の通り。


【平成10年2月23日の交通違反第一交機隊扱い信号(点滅)違反について】

 上記の件につき、私は以下の点で納得がいかず、違反の事実はないと考えますので、略式裁判は受けません。

1)取締りの基準があいまいであること
 私は前を走っていた乗用車(紫色のニッサンマーチ)と同様な走り方で交差点に進入したにもかかわらず、前を走っていたマーチは取締りを受けず、私の車は一時停止をしていないということで取締りを受けた。私の件の取締に当たった神奈川県警第一交通機動隊のS巡査部長(注:実際の文書には実名で書いてあった)は、そのマーチも一時停止をしていなかったが、私の車のほうが交差点への進入速度が速かったので取り締まったのだという。しかし、その判断は停止線の脇に立っていた警官の目視によるものであるということであり、取締りの基準としてたとえば『何秒以上停止しなかった』などの第三者からみてもわかる明確なものがあるわけではないという。
 つまり、『マーチの程度なら見逃せるが私の車の程度では見逃せない』というわけなのであるがその基準があいまいである以上、それで納得する訳にはいかない。そのマーチが取締りを受けていないということはきちんと一時停止をしていたとも解釈でき、従って同じような走行をしていた私の車も一時停止をしていたと考えるのが妥当と思われる。

2)取締方法が違反者を作り出してはいまいか
 停止線脇に立っていたという警官は物陰に隠れており、走っている車からは見えない位置に立っていた。もしその警官が見える位置に立っていたならば警告の役割を果たすことになり無用な違反者は減るはずで、そうしたほうがお互いに経費や手間が省け時間が節約でき、かえっていい効果を生むことになるのではないか。

 仕事の都合で時間がなく、しかたなく現場では青キップにサインをしてしまいましたが、上記の理由から今回の取締には納得がいきません。正式裁判の場で私の違反の事実がなかったことを明らかにしていきたいと考えています。従って、反則金は払いません。

 この文書を供述調書に必ず添付してください。

平成10年7月16日
高橋 克信(ハンコ)


 これでこの件は取り締まりを行った所轄警察の高津警察署に差し戻しとなり、交通裁判所から帰って2ヶ月近く経った9月9日、高津警察署から自宅に電話がかかってきた。この件に関して現場検証を行うので立ち会ってくれという。このような場合は立ち会うと供述調書に書いた手前もあり、その時は立ち会うと返事をし、日時が決まったら教えてくれといってその電話は終わったが、よくよく考えてみると前を走っていたマーチと一緒に現場検証を行わなければ私にとって意味がない。そんなことは事実上不可能であるから、やはり立ち会いは拒否しようと思い、理由を聞かれた場合に備えて理由書まで作って(笑)高津警察署からの電話を待った。翌日電話がきたので拒否する旨伝えると、『そうですか、わかりました』とだけ言ってあっさりと切れた。ちょっと拍子抜け(笑)。まぁ考えてみればテキもこの程度の違反容疑で本気で現場検証などやるつもりだったのか、アヤシイもんである。

 この後、私の供述調書や言い分をまとめた書類は検察庁に送られ、こんどはそちらから呼び出しがあるハズなのだが、今に至るまで呼び出しはない。最後に高津警察署から電話があってからもう1年半近く経っているのに音沙汰がないということは、この件は不起訴になった、と考えてもいいと思う。不起訴になった場合は特に通知などは来ないので、自分から検察庁などに問い合わせて初めて確実なことがわかる。とはいえ私のこの件の場合、書類が検察庁に送られたのかどうか定かではないし、高津警察署に問い合わせてもたらい回しにされそうで時間がもったいないような気がするので、このまま放っておくつもりである。まぁ、忘れた頃に検察庁から呼び出しがあっても、言い分はきちんとまとめてあるので恐れることもないが。

 とまぁ、このように取り締まりに納得がいかない充分な理由や証拠がある場合は、正式裁判への道を選んでみるのがいいと思う。フツーのドライバーやライダーならだいたいは不起訴になるようである。そして不起訴になれば反則金も罰金も払う必要はなく、免許点数が減ることもない。

 さて、私がこのような戦い(笑)ができたのは、実は『交通違反・事故で困らない本―備えあれば戸惑いなし! 』(今井亮一:著、ワニ文庫、1993年4月5日初版発行)という本のおかげである。この本を読んでいなければ、きっと私も泣く泣く反則金を払って終わりにしていたであろう。この本で交通取り締まりに対するきちんとした心構えと準備ができたのである。古い本なのでもう絶版だと思うが、クルマやバイクを運転される方は古本屋などで見かけたら読まれてみてはいかがだろうか。取り締まりを受けたとき、自分にはどんな権利があり、その権利をどのように守り、また行使するかという方法を、今の教習所などでは全く教えてくれないのであるから、このような本で自習するしかないであろう。

【追記】4月の小学館文庫の新刊で、この著者の書いたほぼ同内容の本(タイトルは忘れた(^_^;))が出ているので、興味のある方は一読をお薦めする。役に立つこと請け合いである。


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