2-5.保護具
2-5-1.保護具とは有機溶剤による健康障害を防ぐには、作業環境の改善をまず第一に行うことが必要で、臨時の作業等で作業環境の改善の効果が期待できない場合、または作業環境の改善を進めた上で作業者への有機溶剤へのばく露をさらに少なくするために保護具を使用するのが、正しい保護具の使い方です。 有機溶剤に関る作業で使用する保護具には、吸入による健康障害または急性中毒を防止するための、有機ガス用の防毒マスク、送気マスク等の呼吸用保護具と、皮膚接触による吸収、皮膚障害を防ぐための不浸透性の保護服、保護手袋、保護長靴等の労働衛生保護衣類とがあります。 模型製作の場合、エアブラシ塗装の際に発生する塗料の粉塵や、リューターなどで模型を削ったり、水を使わずにペーパーがけを行ったりした際に発生するプラスチックの粉塵の吸入を防止するための防塵マスクも有効です。 これらの保護具は使用者の健康と生命を守る大切な物ですので、呼吸用保護具のうち防塵マスクの全てと防毒マスクの一部の種類については、『防塵マスクの規格』(昭和63年労働省告示第19号)および『防毒マスクの規格』(平成2年労働省告示第68号)に基づく国家検定が義務づけられています。また、他の保護具についてもJIS(日本工業規格)によって構造と性能が規定されています。 規定に適合する保護具を選ぶこと、常に点検と手入れを行って充分性能が発揮できる状態に保つこと、普段から訓練を繰り返して正しい使用法に習熟しておくことが、保護具の有効な使用のために特に重要です。 2-5-2.呼吸用保護具呼吸用保護具は種類によって、使用できる環境条件や、対象物質、使用可能時間等が異なり、通常の作業用か火災・爆発・その他の事故時の救出用かなどの用途によっても異なるので、使用に際しては用途に適したものを正しく選択しなければなりません。 呼吸用保護具のうち、防塵マスクの全てと防毒マスクの一部の種類には労働省告示による規格があり、労働大臣が行う国家検定を受けなければならないこととされています。検定に合格したものには2-5-2.1図に示す検定合格標章が付いているので、これのあるものを使用しなければなりません。 呼吸用保護具には大きく分けて、ろ過式(防塵マスク、防毒マスク等)と、給気式(後方からホースを通してきれいな空気を送るもの:送気マスク、自分自身で空気または酸素容器を持っていく自給式のもの:空気呼吸器等)の2種類があります。これらのうち、有機溶剤を取り扱う作業では、対象物質に適した防毒マスクまたは送気マスクを使用します。模型製作の場合は防塵マスクも有効です。また、送気マスクなら防毒、防塵双方の目的を一度に達成することができます。 防毒マスク、防塵マスク等のろ過式マスクは、吸収材、ろ過材を通して外気を吸い込み、空気中の有毒ガス、粉塵等の有害物質を除去するのが目的であって、酸欠空気は吸収材、ろ過材を通り抜けても酸欠のままでマスク内へ吸い込まれますので、酸欠空気のところでは使用できません。また有毒ガスが高濃度であるときには短時間で効果が失われたり、粉塵が高濃度で出るときには吸気抵抗が高くて苦しくなったりします。さらに防毒マスクの吸収缶は特定のガス以外には効果がありません。したがって、防毒マスクを有害物の種類や濃度の不明なところ、一つの吸収缶で除去できないガスの混在しているところ、酸素欠乏の恐れのあるところなどでは絶対に使用してはなりません。過去に、防塵マスク、防毒マスクの誤った使用のために死亡した例があります。 2-5-2-1.防毒マスク防毒マスクは、その形状および使用範囲により隔離式・直結式・直結式小型の3種類があり、さらに面体(直接顔に当てるマスクの部分)は、その形状により全面形、半面形に区分されます。 隔離式は、有害な空気をろ過してきれいな空気にする吸収缶と面体が離れていて、その間がホースでつながれています。直結式は吸収缶と面体が直接つながっています。隔離式→直結式→直結式小型の順に吸収缶の大きさは小さくなっていき、それに従って使用可能な有毒ガスまたは蒸気の濃度が下がっていきます。 全面形の面体は、目の部分にあたる前面にガラスが入ったゴム製のマスクで顔全体を覆うようになっていて、マスクについたしめひも(たいていはゴムバンド)を頭の後ろで止めて使います。半面形の面体では、覆われるのは鼻と口だけです。 もっとも、模型製作に使用する程度の有機溶剤の量では、適切な換気さえしていればこれらの防毒マスクを使用しなければならないほどの高濃度の有機溶剤の蒸気がたまることはまずないといってよいでしょう。閉め切った部屋の中でエアブラシ作業をするなんて人はまさかいませんよね。(^_^;) 2-5-2-1-1.吸収缶について 吸収缶は、その種類ごとに有効な適応ガスが決まっていて、そのほかのガスに対しては全く効果がありません。適応するガスの種類を示すため、吸収缶には色別の塗装がされています。
なお、『赤/黒』の塗色の吸収缶は『一酸化炭素・有機ガス用』ですので、これも使用することができます。 吸収缶の除毒能力には限界があり、吸収材が飽和して除毒能力を失うと有毒ガスは除去されずに通過してしまいます。この状態を『破過』と呼びます。除毒能力は吸収缶の種類によって決まっていますが、有機ガス用のものは次のようになっています。
吸収缶の破過時間は、おおよそ有機溶剤の濃度に反比例し、高濃度の場合には短時間で効力を失ってしまいます。マスクを使用する場合にも、できるだけ換気を行ってガス濃度を下げるのはこのためです。防毒マスク使用上のもっとも大切な点はその残存能力ですが、吸収缶に添付されている『破過曲線図』によって推定します。吸収缶の使用時間は必ず記録しておき、破過に達する前に新しい吸収缶と取り替えなければなりません。
なお、有機ガス用吸収缶には四塩化炭素に対する破過曲線図が添付されていますが、破過時間は有機ガスの種類により異なりますので、対象とする有機ガス(模型製作の場合はトルエンが一番多い)に応じた破過時間をメーカー等に確認して知っておく必要があります。
吸収缶が破過すると、臭気または刺激の強い有機ガスの場合は臭気または刺激を感じるようになります。しかし、許容濃度の数倍以上の濃度にならなければ感じないものもありますので、これのみに頼ることは危険です。
対象ガスの濃度限界は、マスクの種類によって異なり、次の通りです。
2-5-2-1-2.防毒マスクの使用方法防毒マスクを使用するに当たっては、次の点について充分に注意する必要があります。
2-5-2-1-3.防毒マスクの管理
2-5-2-1-4.防毒マスクのメーカー国家検定合格品の防毒マスクのメーカーとしては、(株)重松製作所、興研(株)、三光化学工業(株)、エムエスアイジャパン(株)、(株)日本光器製作所、クレトイシ(株)、スリーエム薬品(株)といったところがあります。また、クレトイシ(株)とスリーエム薬品(株)を除いた各社は吸収缶も作っています。製品名や価格については各自お問い合わせください。 2-5-2-2.防塵マスク 防塵マスクは、その形状により取替え式防塵マスク(隔離式、直結式)、使い捨て式防塵マスクに分けられ、さらに面体は、その形状により全面形、半面形に区分されます。
取替え式防塵マスクの隔離式および直結式の構造は、防毒マスクの構造と同じで、吸収缶のかわりにろ過材がつくようになっています。面体の形も防毒マスクと同様です。
防塵マスクの性能は、次のように決められています。
また、防塵マスク選定の基準としては、次の条件があります。
2-5-2-2-1.取替え式防塵マスク◎使用方法
◎管理方法
2-5-2-2-2.使い捨て式防塵マスク使い捨て式防塵マスクはろ過材を成型して面体とした防塵マスクで、使い捨てを原則として使用します。 ◎使用方法
◎管理方法
2-5-2-2-3.防塵マスクのメーカー防塵マスクのメーカーとしては、興研(株)、(株)重松製作所、山本工学(株)、エムエスアイジャパン(株)、三光化学工業(株)、クレトイシ(株)、(株)日本光器製作所、スリーエム薬品(株)、日本バイリーン(株)、東洋物産工業(株)といったところがあります。製品名や価格については各自お問い合わせください。 2-5-2-2-4.模型用防塵・防毒マスクについて最近は模型製作用の防塵・防毒マスクも販売されています。「マスク専門ホームページ Mask.jp」の「フィギュア用マスク」というページで紹介されていますので、参考にして下さい。また『防塵マスク』『防毒マスク』などで検索するとヒットする、工業用安全用品を扱うショップやメーカーなどのwebサイトも参考にして下さい。 2-5-2-3.送気マスク 送気マスクは、行動範囲は限られますが、軽くて連続使用時間が長く、一定の場所での長時間の作業に適しています。
送気マスクには、自然の大気を空気源とするホースマスクと、圧縮空気を空気源とするエアラインマスクおよび複合式エアラインマスクがあります。
これらのうち模型製作で役立てられそうなものはホースマスクでせう。エアラインマスクは圧縮空気を必要としますが、空気圧の弱いエアブラシ用のコンプレッサーは使えませんし、ましてや併用できるはずもありません。かといってそれ用に用意するとか、マスクへの配管や空気のろ過材をどうするかということまで考えると、ほとんど工場をひとつ作るくらいの大がかりな装置になってしまってとても現実的ではありません。
ホースマスクも、1人で作業することが多い模型製作の現場では、手動送風機形のものでは送風機を動かす人がいません。そこで、ここでは肺力吸引式と電動送風機形のものを解説します。
2-5-2-3-1.ホースマスク
2-5-2-3-2.送気マスク使用の際の注意事項送気マスクを使用するに当たっては、次の点に留意する必要があります。
2-5-3.労働衛生保護衣類 労働衛生保護衣類は、有害物が皮膚に付着することによる皮膚障害および皮膚から吸収されて起こす中毒を防ぐ目的で使用されます(労働安全衛生規則第594条)。したがって、液体を浸透しない材質のものを選ぶことが、もっとも大切です。
労働衛生保護衣類には、労働衛生保護服、労働衛生保護手袋および労働衛生保護長靴があります。
労働衛生保護衣類にはJISで定められたいろいろな種類があり、それぞれの材質に応じて使用可能な物質が定められています。一般的に保護服の材料には、布生地にゴムやプラスチックを塗布したものなどが使用されています。
ここらへんについては、模型用の有機溶剤を使用する限りではそれほど神経質にならなくても大丈夫です。園芸用や掃除用のゴム手袋程度のものでも充分役に立ちます。手術用の薄手のゴム手袋のようなものなどは具合がよさそうですね。
私はエアブラシ作業の時には、布製の薄手の手袋を使用しています。これでも染み込むことはありません。筆塗りや組み立ての時は特に手袋はしていません。ホントはしたほうがいいのは重々承知してはいるのですが(なんたって本職ですから)。(^_^;)
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